深刻な物価高騰が続く中、労働者の生活は極めて厳しい状況に置かれている。総務省の調査によれば、2025年12月時点の消費者物価指数は2020年比で13.0%上昇しており、この数年のインフレ基調は収まる気配がない。賃金の上昇が物価高に追いつかず、生活水準が実質的に低下している現状に鑑みれば、労働者が人間らしい生活を営むための基盤として、最低賃金の大幅な引上げは不可欠である。
2025年度、山形県の地域別最低賃金は1時間当たり1,032円となり、初めて1,000円を超えたものの、この1,032円という金額は全国で37番目に位置しており、全国的に見れば依然として低い水準にとどまっている。労働組合等の調査によれば、若者が自立し人間らしく生活するために最低必要な生計費は、時給に換算すると1,700円から1,900円と試算されている。現在の水準と必要生計費との間には依然として開きがあり、労働者が将来にわたって安定した生活を設計するにはさらなる改善が求められる。政府が掲げた「2020年代に全国平均1,500円」という目標に向け、これを堅持し、たゆまぬ引上げが行われなければならない。
加えて、地域間格差の問題も極めて深刻である。2025年度においても全国最高額の東京都(1,226円)と山形県(1,032円)との間には194円もの大きな格差が残されている。地方においては通勤や生活に自動車が不可欠であり、その維持費を含めれば最低生計費は都市部と地方でほとんど差がないとされている。このような賃金格差は、地方から都市部への若者の流出を招き、地方経済の活力を削ぐ大きな要因となっている。地域経済の再生と労働者の平等な生活保障を両立させるためには、制度そのものの抜本的な変革が不可欠である。山形県知事は本年2月の定例会見において県内の人口減少対策に対して問われた際に、全国統一賃金の導入などの抜本的なことに政府は取り組んでいただきたいと述べるほど事態は深刻化している。中央最低賃金審議会が、全国一律最低賃金制度の実現に向けた提言を行うことは、喫緊の課題であると考える。
また、最低賃金の発効時期が地域によって遅延している現状は改善すべき課題である。2025年度、山形県における引上げの効力発生日は12月23日までずれ込んだ。物価高に苦しむ労働者に改定の効果を速やかに届けるためにも、発効日を全国的に適正化するための一定の規制を設けることが望ましい。
同時に、地方の経済を支える中小・零細企業の経営基盤への配慮もまた、賃上げを実現する上で極めて重要である。急激な賃金上昇が企業の存続を脅かすことがないよう、国及び県は抜本的な中小企業支援策を併せて実行すべきである。具体的には、社会保険料の事業主負担分の減免や、人件費の上昇分を適切に取引価格へ転嫁できるよう独占禁止法等を積極的に運用するなどの環境整備が不可欠である。
山形県においては、最低賃金の大幅な引上げにより影響を受ける中小企業に対する「山形県賃金引上げ緊急支援金」や、女性非正規雇用労働者の処遇改善を促す「山形県賃金向上推進事業支援金」といった県独自の直接的な助成制度が展開されている。また、県や関係団体による「価格転嫁の円滑化に向けた連絡協議会」の設置等、地域に根差した価格交渉支援の取組みも進められている。国及び県には、こうした地方自治体の実情に応じた独自の支援策をさらに拡充し、中小企業が持続的に賃上げできる環境を力強く後押しすることが求められる。
以上のことを踏まえて、当会は、都市部との最低賃金の格差を縮小しつつ、地域経済の健全な発展を促すとともに、労働者の健康で文化的な生活の確保を図るため、山形労働局長に対し、山形県の地域別最低賃金の引上げを行うことを求めるものである。
2026年(令和8年)6月2日
山形県弁護士会
会長 手 塚 孝 樹