Yamagata Bar Association
形県護士会

 山形県弁護士会について

 

商品先物取引法における不招請勧誘禁止緩和に反対する会長声明


  1.  経済産業省及び農林水産省は,本年4月5日に「商品先物取引法施行規則」改正案(以下,「本規則案」という。)を公表し,これに対する意見公募を開始した。
     本規則案には,同規則第102条の2を改正することにより,商品先物取引において,当該業者との間でハイリスク取引を継続的に行っていた顧客に対してのみ認められていた不招請勧誘について,①他の業者とのハイリスク取引の経験者に対する勧誘,②熟慮期間等を設定した契約(顧客が70歳未満であることを確認した上で,基本契約から7日間を経過し,かつ,取引金額が証拠金の額を上回るおそれのあること等についての顧客の理解度を確認した場合)の勧誘については不招請勧誘禁止の適用除外とする内容が盛り込まれている。

  2.  しかしながら,商品先物取引は,もともとその仕組みが複雑で消費者に理解しがたく,かつ,リスクの高い取引であることに加え,悪質な業者が,突然の電話や訪問による勧誘によって,商品先物取引の知識や経験に乏しい消費者を取引に巻き込んできたことで,深刻な被害を与えてきた実態がある。このような被害を度重なる行為規制の強化だけでは防止できなかったため,顧客の要請に基づかない勧誘自体を禁止すべきであるという,消費者・被害者関係団体等の強い要望によってようやく,2009年(平成21)7月の商品先物取引法改正で不招請勧誘の禁止が実現し,2011年(平成23年)1月に施行されたばかりである。
     また,同法が改正される際の国会審議においては,「商品先物取引に関する契約の締結の勧誘を要請していない顧客に対し,一方的に訪問し,又は電話をかけて勧誘することを意味する「不招請勧誘」の禁止については,当面,一般個人を相手方とする全ての店頭取引及び初期の投資以上の損失が発生する可能性のある取引所取引を政令指定の対象とすること。」,「さらに,施行後1年以内を目処に,規制の効果及び被害の実態等に照らして政令指定の対象等を見直すものとし,必要に応じて,時機を失することなく一般個人を相手方とする取引全てに対象範囲を拡大すること。」との附帯決議がされている。
     ところが本規則案は,事実上,70歳未満の個人顧客に対する不招請勧誘を全面解禁するに等しいものであって,法が個人顧客に対する無差別的な訪問電話勧誘を禁止した趣旨を没却するものである。

  3.  熟慮期間を設定することについては,かつて,「海外商品市場における先物取引の受託等に関する法律」に類似の規定が設けられていたが,同法が適用される事案においても,熟慮期間を活用して被害救済された例はほとんどなかったという実情を考慮する必要がある。
     投資可能資金額を過大に記載させて,過大な取引を勧誘する事例や,習熟期間が経過したとたん,取引証拠金を目一杯利用した過当な勧誘が行われる事例が過去多数みられことからすれば,これらは不招請勧誘禁止規定の代替策となりえないものである。

  4.  さらに,過去のハイリスク取引の経験があったとしても,投機資金や余裕資金を喪失した顧客は,そもそも商品先物取引のような投機取引を行うにはふさわしくなく,過去のハイリスク取引経験者の全般に勧誘を拡大するような本規則案には賛成できない。

  5.  不招請勧誘禁止規定の見直しについては,2012年8月に経済産業省に設置された産業構造審議会商品先物取引分科会が「不招請勧誘の禁止の規定は施行後1年半しか経っておらず,これまでの相談・被害件数の減少と不招請勧誘の禁止措置との関係を十分に見極めることは難しいため,引き続き相談・被害の実情を見守りつつできる限りの効果分析を試みていくべきである」「将来において,不招請勧誘の禁止対象の見直しを検討する前提として,実態として消費者・委託者保護の徹底が定着したと見られ,不招請勧誘の禁止以外の規制措置により再び被害が拡大する可能性が少ないと考えられるなどの状況を見極めることが適当である」と取りまとめている。しかしながら。現在も,個人顧客に対し,金の現物取引や損失限定取引を勧誘して顧客との接点を持つや,すぐさま通常の先物取引を勧誘し,多額の損失を与える被害が数多く発生していることが日本弁護士連合会の会員からも報告されており,商品先物取引業者の営業姿勢はまったく変わっていない。農林水産省及び経済産業省も,昨年12月に不招請勧誘禁止規定違反があるとして,ある商品先物取引業者の行政処分を行ったところである。現時点で,不招請勧誘禁止規制の緩和が許容されるような営業実態には全くないのであって,規制は維持されなければならない。

  6.  本規則案は,そもそも透明かつ公正な市場を育成し,委託者保護を図るべき監督官庁の立場と相容れないものである上,「委託者等の保護に欠け,又は取引の公正を害するおそれのない行為として主務省令で定める行為を除く」(商品先物取引法第214条第9号括弧書き)とする法律の委任の範囲を超え,施行規則によって法律の規定を骨抜きにするものと言わざるを得ない。
     内閣府消費者委員会も本年4月8日付けで,本規則案が,「消費者保護の観点から見て,重大な危険をはらむものであることに鑑み,その再考を求める。」旨の意見を公表している。

  7.  当会は,本規則案について,商品先物取引の不招請勧誘禁止規定を骨抜きにするような商品先物取引法施行規則の改正は,消費者保護の観点から手続的にも内容的にも到底許容できるものではなく,強く反対する。

2014年(平成26年) 5月1日
山形県弁護士会
会 長  峯田 典明


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